新規高温構造材料の開発と評価

エンジンの燃費を向上させる最も確実な方法は,熱力学が教えるように 燃料の燃焼温度の向上である.しかしながら高温の燃焼ガスを利用するためには, その温度に耐える材料が必要であり,むやみに燃焼温度を上げることはできない. 材料の耐用温度は材料の融点で決まるものではなく,外部から力が加わった時に 材料内部の微細組織がどのように変化するかに大きく依存する. より高い温度で使用できる材料の開発や,既存の材料をより長時間使用できる方法を 確立することにより,航空機用ジェットエンジンや火力発電所の燃費向上に 貢献することを目指す.

各種新材料の物性評価

新しい材料を設計したり,世に送り出す時にはその材料がどのような特性を示すのか 適切に評価しそれをフィードバックしなければならない.そのためには力学的な評価を行うことはもちろんであるが, 材料によっては熱的,磁気的,電気的な物性の評価が重要なものもある.これらの特性を正しく評価し, 計算機の力を借りながら原子・分子の尺度からその特性を理解することが新たな原理・原則の発見へとつながる.

局所格子不安定性解析によるナノスケールダイナミクスの解明

カーボンナノチューブやナノワイヤなど, 原子レベルまで制御される微小材料は,連続体近似が成立せず,従来の転位論や破壊力学が適用できない. 巨視的な構造材料においても,結晶粒をナノオーダーまで微細化し高強度化するなど,ナノスケールの「欠陥」を積極的に制御し, 新しい材料を創成する研究が活発になされているが,結晶塑性論など従来の連続体近似に基づく理論では, 逆ホールペッチの関係などを説明することができない.このように,ナノスケールオーダーで発現する現象について, そのメカニクス・ダイナミクスを,分子動力学シミュレーションを援用して解明することが本プロジェクトである. 各原子位置におけるエネルギー曲面の曲率(2次微分)を第一近似的に評価する「局所格子不安定性解析」という独自の基準を提案し, それに基づいて各種プロジェクトを推進している.

バルクアモルファス中の不安定原子(赤色)左:Nickel,右:Aluminum

各種材料の変形・破壊の分子動力学シミュレーション

上のプロジェクトは,変形・破壊の物理を追究すべく, シミュレーションモデルや温度などの境界条件は出来る限り単純化(問題の切り分け)する. 一方,より大規模なシミュレーションにより,工業上興味のある具体的なターゲットを扱うのが本プロジェクトである. Ni基単結晶超合金の微細析出構造中における転位挙動,高分子のヒステリシス挙動,半導体の界面転位のシミュレーション, CNT林立構造の押し込み・スクラッチシミュレーションなどを実施・検討している. いずれも,時間スケールの問題から分子シミュレーションの結果が直接,材料設計・開発に結びつくわけではないが, ボトムアップの視点からシミュレーションを行うことで,材料開発のヒントとなる事象を見出している. すなわち,材料試験機(シミュレーション)のアウトプット(応力-ひずみなど)だけでひずみ速度依存性などを議論するのではなく, 個々の原子・分子鎖挙動を徹底的に調べることで,変形・破壊の支配因子を見出す.汎用の分子動力学ソフトが広がりつつある現在でも, このような「実験技術」がなければシミュレーションから新しい事実を得ることは難しい. 当研究グループは,そのノウハウに加え,金属・半導体・高分子・フラーレンと,様々な材料のシミュレーションを実施できる技術を有している.


メタルナノワイヤ表面(4つを並べて表示)からの転位発生

転位動力学,準連続体力学,フェーズフィールド法によるマルチスケール解析

時間・空間スケールの問題から,多数の転位の集団挙動や,高温下における転位の熱活性化過程などを分子動力学で扱うことはできず, 連続体近似に基づく上位スケールのシミュレーションに頼らざるを得ない.そこで,転位論に基づき, 連続体中の転位を「線」として扱う離散転位動力学シミュレーションや,基本コンセプトは有限要素法(FEM)と同じであるが, 構成式の代わりに原子間ポテンシャルを仕事関数に用いることで,界面や転位近傍など原子レベルの情報が必要なところでは原子構造を陽に扱い, それ以外のところでは有限要素メッシュを粗くして計算コストを減じる準連続体力学法, 固液界面問題などで多大な成功を収めてきたフェーズフィールド法など,様々な計算力学手法のシミュレーションに積極的に取り組んでいる. ターゲットはこれまで主としてNi基超合金であったが,酸化物分散強化鋼(ODS鋼)中の転位のモデリングについても共同研究を開始している.


γ/γ'構造中の転位の離散転位動力学シミュレーション

第一原理計算・格子不安定解析による合金強度予測・設計

第一原理計算は,経験的な情報(実験データ)を必要とせず, 原子種と原子核配置から原子間に働く力を精密に評価する「究極の」計算手法である. 分子動力学シミュレーションのように原子間ポテンシャルの選択に苦労することなく, あらゆる組み合わせの元素の解析が可能であるため,試行錯誤的な実験によらない, 新しい合金設計の柱になることが期待されている. しかしながら,計算量が膨大となるため扱える原子数が極めて少なく,引張強度など機械的特性の予測が難しい. 最近は第一原理計算による引張シミュレーションなども盛んに行われているが,原子数が少ないと自由に運動できないため, 得られる応力-ひずみ曲線は,変形経路を仮定した「静力学解析」のものとなる(下図着色平面上の黒線). 一方,変形方向以外の自由度を考えた場合,実際にはよりエネルギーが低い経路が存在する(図中緑線). その分岐点を効率的に求めるのが,従来行われてきた(局所ではなく,理想均一結晶の)格子不安定性解析である. 耐熱超合金の界面設計を視野に入れ,周期表に従って様々な元素の格子不安定マップを作成するプロジェクトを提案し, 2005年度から連続して科学研究費補助金に採択されている.

先進カーボン材料の創成

近年、サッカーボール構造を有するC60フラーレン、 黒鉛の一層一層が球形に積層したタマネギの構造のカーボンオニオン、 さらにチューブ状構造を有したカーボンナノチューブなど、 ナノメータサイズの新しい炭素同素体、先進カーボン材料の発見が相次いでいる。 本研究室には分子線エピタキシー装置や熱およびプラズマCVD装置など様々な材料生成装置が設置されており,これらを用いて先進カーボン材料の創成を行っている。

カーボンナノチューブ薄膜のSEM像(左図)と カーボンオニオンのTEM像(右図)

先進カーボン材料のトライボロジー

先進カーボン材料は既存の材料にはないユニークな機械的特性を有していることが明らかとなってきている。カーボンナノチューブは柔軟でありながら引張りの強度も強く、同じ重さ当たりで比較すると鉄の10倍に達する。またカーボンオニオンは特殊な球状構造ゆえに固体潤滑剤として高い可能性を秘めている。これらのトライボロジー特性(摩擦摩耗特性)を明らかにするために、マクロ荷重からナノテクノロジーを視野に入れたマイクロ荷重まで、幅広い荷重領域で研究、またはESR等を用いた解析を行っている。

AFMによる摩擦試験(左図)林状に林立したCNTのSEM像(右図)

マイクロマシン表面の水分子吸着とマイクロトライボロジー

固体表面に吸着する水分子は表面近傍水と呼ばれる遠距離秩序をもった特異な構造をとる。吸着層が増すと徐々に母材(バルク)の水構造に変化するが、バルク水構造をとるとメニスカスを形成し大きな表面間力を生じることがある。したがって、わずか数分子層の吸着水分子がマイクロマシンの動作特性を支配していると言っても過言ではないので、水分子の吸着挙動とその凝着・摩擦特性に与える影響を明らかにすることはマイクロマシンの実用化にとって非常に重要である。このような観点から、マイクロマシンの実表面やモデル表面への水分子の吸着挙動を水晶振動子微少質量天秤、表面間力測定装置を用いて研究している。

表面粗さと凝着力(左図)水の接触角の測定(右図)